その家は古い古い民家だった。祖父は歳だということもあり、既に農業を辞め、田畑は父の兄夫婦に譲り渡して自分達が食べる分だけの野菜を庭先の小さな畑で作っていた。
 歳のわりには、背筋のしゃんとした人だった。真っ黒に日焼けした顔に刻まれた無数の皺。祖母に怒られると、いつもいたずらっ子のように舌を出した。
 祖母は明るく働き者で、ミシンで僕達姉弟の浴衣を縫ってくれたり、裏の畑で採れたばかりの西瓜を冷やして待っててくれた。
 僕達はいつも二週間程、その家に滞在した。ひんやりとした板張りの廊下、広い土間。いつもピカピカに磨きこまれた台所のシンク。タイル張りの風呂場。