電車は間もなくやって来た。
　いくら通勤ラッシュのピークを過ぎたとはいえ、座席を確保出来たのは幸運だったと思う。乗り換えの駅まで、読みかけの本を開く。伯母から借りたものだった。
　残りのページが４分の１程になったところで、電車は目的の駅に着いた。東京駅。僕はコートのポケットに本をしまい込むと、Suicaを改札口に持っていった。
　母の実家は静岡にある。昨日伯母の家を出た後、駅で購入しておいた切符を取り出す。新幹線に乗るのは何年ぶりだろうか。うっすらとしてしまった記憶の糸を辿った。ホームのベンチに腰を下ろし、漠然とした幼い頃の思い出に浸ろうとする。僕が幼い頃は夏休みに父方の祖父母の元へ、よく帰省していた。
　新潟の、本当に山合の小さな集落に、祖父母の家はあった。