父の朝は早い。毎朝五時には起床し、混雑する時間帯を避け、いつも一本早い電車に乗り会社に向かう。
 それから早朝の静かなホームで缶コーヒーを買い、がらがらの車内で優雅に推理小説を読むのが父の楽しみだそうだ。
 今朝ももちろん例外ではなかった。父は僕宛てにどこにでもありふれた茶封筒を残していった。中には一枚の便箋とお金が入っていた。

 交通費に使いなさい。父より

 たった一行の短い手紙。でも、それには僕に対する信頼が溢れている気がした。優しくて不器用な父の気持ちが溢れている。
 今日の朝用意した小さな旅行鞄に封筒を大事にしまい込んだ。