「何してるの?こんな所で。」
 伯母はトレーナーにジーンズというラフな格好で、手には車のキーと財布を持っていた。
「あのさ…今夜泊めてくれない?」
自分の声が上擦っているのが分かった。
 突然の申し出に困惑したような顔を見せる伯母。少しして、
「いいわよ。お父さんは知ってるのよね、ここに来てること。」
「いや、親父は知らない。」
 僕は真っ直ぐ伯母の顔を見て、言った。その顔が伯母の目にどう映ったかは分からない。もしかしたら、泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
 伯母は、そう、と何も無かったように短く言うと、風邪をひくから早く中に入りなさいと僕を自宅に招き入れた。
 久しぶりにあがった伯母の家は程よく散らかり、程よく片付いていた。
 3LDKの間取り。デスクには無造作に積み上げられた、仕事関係の雑誌や資料の山。洗濯物はきちんと畳まれたまま置いてある。
 室内のインテリアはアイボリーホワイトで統一されているせいかすっきりとした印象だ。
 「今、お風呂沸かしてるから、溜ったら入りなさい。」
 伯母はそう言うとクロゼットから、スウェットの上下を出してきた。
 浴室に行き、濡れた服を脱ぎ捨てて無造作に洗濯機に投げ入れる。
 スウェットに袖を通す。もちろん伯母の物だから、つんつるてんだ。ただ、初めて人心地がついた気がした。
 ようやく呼吸が出来る、と思った。