母が死んだ。僕はその知らせを聞いた時の事を、よく覚えている。
 
 古典の授業中だった。体育の後の授業はだるくて、虚ろな目を宙に泳がせていた。
 担任の先生が教室に飛び込んできた。ざわめく教室。担任は肩で息をし、額にはうっすらと汗が滲んでいる。
 「早坂!お母さんが…。」
 その言葉に、敏感に反応した自分がいた。すぐに立ち上がって鞄を取り、教室を飛び出た。
 予想してたより、少し早いな。
 階段を早足で降りる僕は、自分でも憎らしくなるくらい冷静だった。

 玄関で靴に履き替え校舎の外に出ると、タクシーが校門の外に四灯を焚いて停まっている。
 タクシーの中から、父が顔を覗かせていた。
「姉貴は?」
タクシーの窓越しに父に聞いた。
「先に行ってる。早く乗りなさい。」
 僕がタクシーに乗り込むと、父は早口で病院の名前を告げた。