「よし、少し休め」
 馬車の中で、文学のレクチャーに一区切り付け、リュシオスが言う。
「疲れたか?」

「リュシー、昨夜寝た?」
「ああ。何ならお前の寝言、教えてやろうか?」
「それ、寝てないってことだよ」
「うるさい」

 と、彼は一瞬物憂げな顔をし、

「もう半分か……」
 窓の外を見ながら言う。
「……え?」
「目的地まであと半分だ」
 顔は、もういつもの無表情に戻っていた。

「みんな……どうしてるかな……」
「家族か?」
「うん」

 家族に仕送りをするために一人で暮らしていたのを無理矢理引っ張ってきたことを思い出しながら、リュシオスは、
「会わせてやれないが手紙ぐらいは届けてやる。時間をやるから書きたければ書け」
 羊皮紙と羽根ペンを寄越しながら言ってくる。

「う~ん……」
 何から書くべきか迷うリリア。実を言うと、リュシオスがリリアを自分と同行させることは医者と最初の金を送った際に通達してあるのだが、それを彼女は知らない。

「ねぇ、今どこに向かってるの?」
「黙って書け」

 暫く、彼女は羽根ペンを動かし、
「はい」

 色々、思いつく限りをてんでばらばらに書いてリュシオスに渡す。下書き以下の落書きで、見たリュシオスが怒ること以外期待していない。

「封をしろ」
 中に目もくれず、当然のように言ってくる。

「見ないの?」

「何で俺がお前の家族宛の手紙を見るんだ?」

「だって、郷里の手紙は全部役所で……」
 彼女の村の辺りは、検閲が厳しかった。実際、郷里と手紙のやり取りをすると、封が切られ所々塗りつぶされた手紙が届いていた。

「一緒にするな」
「あ、珍しい」
「何がだ?」
「だって、リュシーが嫌そうにしてる」

 と、彼は、溜息をついて、
「そんなもの、これからいくらでも見せてやる」
 珍しく切なげに、そう言った。


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