「……で、分かるか? リリア」

 礼儀作法の次は歴史だった。外でリュシオスが買い込んできた本の一冊を開き、書いてある事を覗き込みながら、
「ん? この書き方は走り過ぎだ。……シデンの行政が寛容な民族性を持ち、テシアの特殊性を容認したために……」

 どうやら、歴史を暗記しているらしい。本は、彼女が後で思い出すためのものでしかないようだ。

 服装は、先程の礼装のまま。肩が凝るが、これに慣れないといけないと言って着替えさせてくれない。

 やがて、時計の鐘が鳴った。

「よし、今日はもういい。風呂に入って休め」
 言うと、リリアの礼装をはだけさせ、目もくれずにテーブルにつく。彼女が寝間着姿で戻ると、部屋の明かりを落としテーブルのランプだけで書類を書いていた。

「……お風呂空いたよ」
「ああ。寝ろ」
「リュシーは?」
「これが終わったら寝る。先に寝ろ」
 リリアに視線も向けず、羽根ペンを走らせる。

「……忙しいんだ……」

「それがどうした」
 リリアがぽつりと洩らした言葉に、事も無げに言う。

「あたしに構ったから……」
「うるさい黙れ」

 それっきり、会話は無かった。リリアが横になってからも、紙をめくる音と羽根ペンの音は止まなかった。



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