「リリ……」
帰ってきたと、振り返ろうとし、リュシオスは目を見開く。
「……リリア!?」
虚ろな顔、涙の跡、乱れた衣服。状況は――認識できた。
ただ、声を荒げる。
「あ……そんな……リリア! リリア!」
震える手と声で彼女を抱き締め、
「何とか言ってくれ! リリア! リリア!」
と、突然、リリアを離した。そのまま、彼女をここまで連れてきた将軍に詰め寄る。
「……皇帝陛下にお話したい」
静謐な、怒り。
「殿下の件は、今朝から全て私の一存で判断するようになっております。お取次ぎは致しかねます」
「貴様!」
将軍が手を挙げて制した。指し示した先には――兵士に、喉元に槍を突きつけられたリリア。
状況が分かっているのかいないのか、彼女に反応はない。
「どうなさいますか?」
「貴様らぁッ!!」
慌てて兵士からリリアを取り戻すと、ただ叫んだ。
「リリア……畜生……畜生」
将軍が去ってから、リュシオスオスはただ呟き続けた。
起きているが意思の無い、妻を抱き締めて。
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