「着替えろ」

 リリアが、今まで見たことも無いような豪華な部屋――宿の一室である――に溜息をついていると、リュシオスが服を放って来る。

「……重い」
 その服の感想を正直に述べる。

「礼装だ。間に合わせだが。……ほら」
「な! ……ちょっと!」

 当然のように彼女の後ろに回りこみ、背中のファスナーを下ろし始めるリュシオスに、リリアが抗議の声を上げる。

「一人では着られないぞ」
「だからって……」
「うるさい黙れ。下着は取らん」
 冷たいアイスブルーの瞳に何の感情も浮かべず、さっさと彼女を着替えさせると、歩き方や礼の仕方などをはじめ、礼儀作法を教え始める。

「……こんなの覚えてどうするの……」
「俺が知るか」
 思わず呟いたリリアに、リュシオスが言い、
「こんな形骸的なこと……いずれ放逐してやる」
「……王様になるような言い方ね」
 実際、今までのリュシオスの態度が君主のようだと思えなくも無い。

「うるさい」
 こころなしか、いつもの「うるさい」とは違うような気がしていた。


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