「リュシオス君がいないと淋しいね」
気さくな調子で、男は言う。
廊下を歩いていた。どこへ向かっているのかも分からない。
「彼、大丈夫かい? 回復したって聞いたけど」
「え?」
「バネットの奴に閉じ込められてたんだろ? 噂になってる」
「そう……ですか。もう大丈夫です」
「話は聞いたよ。国元じゃあまり大事にされてなかったんだろ? お母さんとお姉さんもお気の毒に。
何でそのリュシオス君が祖国を守ろうとするんだい?」
リリアは足を止めた。
「つまり、こういうことですか? リュシーが国を売るよう、あたしから言えと」
「話が早い。そういうこと。
君が言えば、ね。彼は君しか愛してないみたいだし。例のバネットのせいで有名だ」
「お断りします」
「おや、考える暇もなしかね」
男は、肩をそびやかせた。
「リュシーは国民を守ると言っています。彼の意思なら、あたしも従います」
「愛は強し、かい? 若いね。
まあいいや、なら戻ろう」
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