リリアの方は、何もなかった。もともと、彼女は血筋もなくて、何も期待されていなかったのだから。

 ただ、女官と話すだけで時間が過ぎ、五日後に船は着いた。

「あら、リーリアント殿下。リュシオス殿下ですよ」

 慌ててそちらを見ると、港から出発する馬車で、若い女性と親しげに話しているリュシオスがいた。

 良かった。――まだ何もされてなかった。

 安堵しながら見つめる。

「さあ、リーリアント様?」

 リュシオスが側にいたら、彼にすがり付いて泣いたのに。

 リリアは、平静を装って促されるまま別の馬車に乗った。



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