「……リリア……」
 いつもなら、同じベッドに居さえすれば触らないのだが。

 リュシオスは、今夜は珍しく、彼女から手を離さなかった。時々離しかけるが、すぐに埋め合わせるように抱き寄せる。寝言で名前を言うのも、以前は無かった。

「……リリア」

 彼女がそっと、彼の頬に触れると、落ち着いたように寝息が小さくなった。そして――
「……母さん……姉さん……」

 今まで聞いたことも無いリュシオスの言葉に驚くが、忘れることにした。

 彼が自分から話すまで、待とう。彼の穏やかになった寝息を聞きながら、眠る。

 リュシオスの話では、明日の昼頃に目的地に着く予定だった。


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