いったい あの時 母の意識は どこに あったのだろう。
人は、天に召した後、霊としてそばにいる可能性があるらしい。
じゃあ、病に倒れ、意識なくした 母の意識は どこにあったのだろう。
無の世界、、、、想像できるのは 目の前の母は、今 物体なのだ。
このまま、意識なく ここにあるのなら、 霊として浮遊して いるほうが
母にとっては 幸せなんじゃないだろうか。
父は 病床の母を見舞った後 家で、云った。
「このまま しゃべらなくてもいいから、十年でも、何年でも生きていてほしい」
父の気持ちもわからないでない。
「冗談じゃない、、、死ぬ時でさえ、母を苦しめるのかい?
    母の暴君として 苦しめるのかい?」
母との最後の会話、、そして最後の手紙を 脳裏から離れない。
「あの人は暴君、、、私を人間扱いしていない、、、」
この言葉は 父には知らせていない。 死ぬ間際の母の言葉としては
あまりにも悲しすぎる。

父も悪い人ではない。寂しがり屋の小心者だ。
酒がなきゃ、自分の身の置き場がないほど、
偏見と懐疑心が尋常ではない。  
その酒も 十年前 脳溢血で倒れたあと、一滴も口にしていない。

母が倒れる半年前 父と電話で喧嘩した。
言い出したら、従わないと、「言うこと聞けないのか」と
キレルのだ。
仕事で障害をもった私にも そのやり方は かわらない。
そのやりとりは 母に対しても 同じだったのだろう。