奴が姿を見せなくなってもう数年だ。

 遠く亜米利加(アメリカ)の地で起きた事件も奴のせいだと言う奴らもいるが、もしそうだとしてもこの倫敦に奴がいないのならばそれでいい。

 一年足らずで世間を引っ掻き回し、正体もわからないままに消え去った殺人鬼。

 容疑者は何人もあげられたが、結局チェックメイトに至った者はいない。

 余罪は山ほど出てきたがな。

 時効までは時間がある。諦めるわけにはいかない。

 しかしなぜだろうな。

 絶対に奴を見つけることはかなわない。

 そう、思うことがあるんだ。

 どうかしてるよ、本当に。

     一八九四年 八月十日 ジョージ・サンダーソンの手紙より抜粋