「──頑張れ、葵」


自分に言い聞かせるようにつぶやくと負の気持ちを振り払うようにカーテンを開いた。








早めに起きたおかげで悠々と支度ができた。


朝食もしっかり最後のミルクティーも飲めたし


新しい制服にもゆっくり袖を通せた。


忘れ物がないか四回も確認だってできた。



お母さんがまた新しい気持ちでスタートできるように、新調してくれたローファーを履いて
少しの間、眺めてからドアに手を伸ばした。



その瞬間、何かが散らばり落ちる音が私の耳をつんざいた。



ガシャーン・・・・・




──なに・・・?



恐る恐る外の景色がうかがえる程の隙間を開ける。



一人の男性が居た。
目を凝らしてみると、その人は何枚もの書類を抱えるように持っている。


そのまま視線を下に落とすとアルミ製の筆記用具が床に散らばっていた。
筆記用具のふた部分は外れていて、ふたやペンなどが四方八方に散らばっていた。


数メートル離れた私のドアまで飛ばされている。



「・・・マジかよ〜」



男は溜め息混じりに呟くと、けだるそうに書類を床に置いた。



白地に青色のストライプが浮かぶシャツに藍色のネクタイ。
袖は無造作にロールアップされている。



ドアの前のペンを拾い上げると、しゃがみ込んでいる男に差し出した。

「・・・あの・・・」



私の手に気付いた男がゆっくりと顔をあげる。



「私のとこのドアまできてました。」



「あ・・・・申し訳ないです!」


ペンを受け取ると
男は照れくさそうにはにかんだ。

本当に恥ずかしそうに微笑む男の表情に
なんだかこっちが申し訳なくなってしまった。