向かった先にある大きな水槽の前に、人だかりが出来ていた。


私達はその後ろから全体を眺めていた。


前の方に人が集中してて、私達の周りには誰もいない。



──繋いだ手に、少しだけ力を入れた。



「ん? どうした?」

「……ご」


「ん?」

「けい……ご」


覗き込まれた目が、一瞬大きく見開かれた。


「何? 聞こえなーい」

……絶対、ワザとだ。


でも、今はそれでもいいや。


「……圭吾」

名前を呼ぶだけで顔が赤くなるなんて、あり得ない。


「もう一回」

「……もう無理」

「その反応、かわいすぎだし」


ふっと笑った先生……圭吾が私を抱き締めた。


「ちょっ……人……!」

「みんな水槽見てるし。誰も見てねぇよ」

「でもっ……!」

「いいからもう黙れ」



黙れって言いながら、黙らせたのは──圭吾で。


「……っん」


こんな人がいるところで唇を塞がれた。


「……バカ」

「かわいいこと言う真央が悪い」

そう言って、触れるだけの軽いキスが落とされた。





“幸せ過ぎて怖い”っていうけど、初めてそう思った。


この幸せがずっと続いて欲しい。

もう、誰にもいなくなって欲しくない。



あんな寂しい思い、もうしたくないよ──……。