「うん」


やっぱり担任だから、そういうことも知ってるよね。



「中学卒業してすぐだった。……何で私だけ残ったのって思ったし、一緒に連れてってくれれば良かったのに、って思ったこともあった」



誰かに親の話をしたのは初めてだった。

琢磨は最初から知ってたし。



「今でも、そう思ってる?」


「……思ってない」


だって、先生に出会ったから。


「今日は名前、呼んでくんないの?」

「…………」


改まって言われると……恥ずかしい。


「昨日は呼んでくれたのに。ベッ……」

「言わないでよっ……そういうこと」


ククッと肩を震わせてる先生を軽く睨む。


昨日、腕の中で初めて呼んだんだよね。



──“圭吾”って。



思い出したら、顔が熱くなってきた。



「何思い出して赤くなってんの? 真央のエッチー」

「……うっさい」

赤い顔を見られないように、頬に手を当ててそっぽを向いた。


「かわいい」


かわいくなんてない。

自然に名前も呼べないなんて、全然かわいくない。



「そろそろ行くか」

「ん……」


立ち上がれば自然に繋がれる手。


そんな小さなことにも幸せを感じるのに、私は、幸せって感じさせてあげられてる?