トイレに入って洗面台の鏡を見ると、そこにはいつもとは違う私がいた。

黒い髪の毛はスプレーで茶色にされ、ちょっと派手めに施されたメイク。

耳には開けたばかりのピアス。


──高校入学前には見えなよね、少なくても。


外見ばかり変えたって、何も変わりはしないのに。

そんなことに拘ってる時点で、私はまだ子供ってことか。





トイレから出ると、少し離れた所にケンジが立っていた。


「遅いし」

「……ごめ、ん」

私、何で謝ってるの?


「逃げられたかと思った」

「別に……逃げないし」


気が付けば、ケンジは煙草を咥えていた。


煙草、吸うんだ。



「でも、もう終電だし帰るか?」

そう言って煙草の火を消して微笑んだ。


帰る?


誰もいない、まだ慣れない部屋が頭に浮かんで、思わずケンジの腕を掴んだ。


──初めて、自分からケンジに触れた瞬間だった。



「マイ?」

不思議そうな顔でケンジが覗き込む。


「……帰りたく、ない」


……言った後で気が付いた。

これって、世間一般では“誘いの言葉”だよね。





「……ホテル、行く?」


ほらね。

でも、別にそれでもいいや。


コクン、と頷くと、ケンジは口元だけで微笑んで、私の肩を抱いてゲーセンを出た。


初めて男の人に肩を抱かれてびっくりしたけど、表に出ないように必死に抑えた。