初めて食べた牛丼は……おいしいと思った。

久しぶりに誰かとご飯を食べたから?


……この男と一緒だったから、ってことはない……よね。


隣をチラッと見上げたけど、男は前を見ていて私の視線には気付かなかった。




「何であんなトコに一人で立ってたんだ?」

牛丼屋を出て、ゲーセンに向かってる途中、男が聞いてきた。


……何でもいいから変わりたかった。

誰でもいいから傍にいて欲しかった。


だって、人はいつ死ぬか、わかんないんだから。



「……別に」

またも吐き出されたこの言葉。

咄嗟にうまい嘘の一つも出てこない。


「マイは“別に”ばっかりだな」

男……じゃなくて、ケンジはそう言って笑った。


この笑顔を見せるから、私は、この男に気を許し始めているんだろうか。





ゲーセンに着いて、ケンジに促されるままゲームで遊んだ。

カーレースにエアホッケー。


プリクラ機に入ろうとするのは必死になって止めた。


だって、この男と思い出みたいな物を残してもしょうがないし。



あ、あれかわいい。

別のコーナーに行く途中に通ったクレーンゲームコーナーで、私は思わず立ち止った。

ケースの中に入っているのは、小さな白いうさぎのぬいぐるみ。



「何? 欲しいの?」

私が立ち止ってることに気付いたケンジが振り返った。


「……別に」

素直に欲しいと言えない私。


「取ってやろうか?」

「いらないってば。……トイレ、行って来る」


逃げるようにその場から離れた。

そんなに欲しそうな目、してたのかな?