「高岡」


教室に足を踏み入れた時、後ろから声を掛けられた。

今ではもう、振り向かなくても誰だかわかる。


「呼び出しだー。何かしたの?」

遥がクスクス笑いながら教室に入った。


「ちょっといいか?」

「……はい」


呼び出されて向かう先は、もちろん準備室で。

いつ入っても、他の先生はいなかった。


……こうやって二人きりになるのは、あの雨の日以来。


「……何ですか?」

「今日、何か予定ある?」

「はる……都築さんと水野さんとカラオケに……」


“予定がある”とだけ言えばいいのに、何でそんな細かく報告してるんだろう。


誤解されたくないって、無意識に思ったのかな?

言った後でそう思った。


それを聞くと先生は、机にあったメモ用紙に何かを書いて私に渡してきた。


「?」


二つ折りにされたメモと先生の顔を見比べる。


「終わったら電話して」

「……でっ電話!?」

慌ててメモを開くと、確かにそこには携帯の番号が……。


「なん、で?」

「会いたいから」

「!」


思わず口元を手で覆った。


……やばい、顔が熱い。


「お前、意外とかわいい反応すんだな」

「なっ……!」

ますます赤くなるようなこと言わないでっ。


「意外って……どういう意味ですか?」


赤い顔して睨んだって、全然説得力ないのに。