「ごめんね、待った?」
「いや。どうした? 帰ったんじゃなかったのか?」
「話、あるの……」
無意識に、カバンをぎゅっと握り締めていた。
「じゃ……公園でも行く? 人いない方がいい話、なんだろ?」
「ん……」
私達は近くの公園に移動した。
夕暮れも過ぎて、薄暗い公園に琢磨と二人きり。
手には、さっき琢磨が買ってくれた紅茶の缶。
「で、何? ……あんま、いい話っぽくないけど」
琢磨はそう言って自分のコーヒーを開けた。
「あの、ね」
両手で缶を握り締め、私は顔を上げて琢磨を見た。
「他に、好きな人……いるの」
それを聞いて、琢磨は一瞬目を大きくしたけど。
「だから……琢磨の気持ちには、答えられない」
「そっか」
「……ごめん」
「わかってたよ。俺に気持ちないこと」
「琢磨……」
公園の中にある街灯が、ぽつりぽつりと灯り始めた。
「誰って……聞いてもいいか?」
私は首を横に振った。
「琢磨の……知らない人」
──髪の毛を触りながら。
「……ダメだったらハッキリ言ってくれていいんだけど。友達で、いられないかな……?」
勝手なのはわかってる。
だけど、言わずにはいられなかった。
「……ちょっと時間、くれよ」
こんな顔をする琢磨を見たのは初めてだった。
「ん、わかった」
“ごめん”って言葉はぐっと飲み込んだ。
今は言っちゃいけないって思ったから。
「先、帰っていいぞ」
「……わかった。じゃあ、ね」
開けないままの紅茶の缶を握り締めて、私は先に公園を後にした。
背中の方から、缶の潰れる音がした気がした──……。