「ま……い」


つい本名を言うところだった。


「マイ?」

確認するように繰り返した男に、コクンと頷いて見せた。


どうせ二度と会うことはないだろう。

そんな男に、本当の名前を教える必要はない。


……コイツの名前、聞いとくべき?

でも、“アンタ”とか“ねぇ”で事足りる気もするけど……。


「聞かないの? 俺の名前」


「……別に」

何でも見透かされてる気がして嫌になる。


「……年、いくつ?」

当てていた手でそのまま頬杖をついて、男の横顔に目をやった。

遊び慣れているから見透かされるのか、それもと私が顔に出過ぎなのか……。


「ん? 俺に興味出てきた?」

男はなぜか嬉しそうな顔をした。

「……別に」


答えたくないならそれでもいい。

っていうか、アンタに興味なんてない……し。


「俺、ケンジ。24。マイは? いくつ?」

「1……8」


まだ高校入学もしてないのに、18歳は無理があったかな……?


そう思って窺うように男──ケンジの顔を見たけど、

「若いねー」

なんて言って笑った。


コイツ、鋭いのか鈍いのかわかんない。


そうこうしているうちに、注文した品が運ばれてきた。


……そういえば、誰かとちゃんとご飯を食べるなんて、いつ以来だろう。

しかもそれが、今日会ったばかりのナンパ男とだなんて。

何だか自分のしてることがおかしくなってきて、小さく笑った。

もう、どうなってもいいや。


「ん? どうした?」

それに気付いたのか男……ケンジが、私の顔を覗き込む。


「……別に」


さっきからこればっかり言ってる気がする。


「ま、こんな所だけど食えよ」

……店員がまだいるのに“こんな所”とか言わないでよ。