「意外ときれいにしてんじゃん」
久しぶりに入った琢磨の部屋は、やっぱりどこか落ち着いた雰囲気に変わっていた。
前はブルーを基調としてたけど、今は全体に黒っぽい。
「お前、何持ってきたの?」
「ん? 数学」
カバンの中から勉強道具を取り出す。
「だけ?」
「だって一番苦手だもん。主席入学にヤマ張ってもらおうと思って」
「……ぜってー教えねぇ」
「嘘! ごめんって」
琢磨も勉強机から数学の教科書を取り出した。
部屋の真ん中にあるテーブルで二人、向かい合ってペンを走らせる。
苦手だけど平均点は取れる……はずだから、まぁそれでいいかな、なんて思ってたりするんだけど。
相変わらず、何もなかったような琢磨。
何か、二人きりの空間って、妙に緊張するなぁ。
“琢磨ー”
遠くからおばさんの声がした。
「んだよ……」
文句を言いながらも立ち上がり、階段を下りる足音がする。
“ちょっと足りない……から買ってくるわね。……ヘンなこと……”
ところどころ聞こえる声。
多分、近くまで来てたのかも。
私はペンを置いて大きく伸びをして、部屋の中を見回した。
しばらく来ない間に知らない部屋みたいになってる。
サッカーボールが壁に掛けてあるのは相変わらずだけど。

