「……バカ」

マジメに話してるのに。


「キスされたこと、ショックだったのか?」

「わかんない……。びっくりした、けど」


「嫌いなの? 結城のこと」

「……嫌いじゃない、けど……」


「じゃあ、俺は?」

「……っ」


……今、この状況でそれ、聞くかなぁ。



この腕の中はほっと出来るの。

だけど、これって、好きってことなの?



「……焦らないって、言ったじゃん」


答えが出せなくて、少し責めたような言い方をしてしまったら、


「まぁ、言ったな」

と、ちょっと困ったような声が返って来た。




「……嫌い、じゃないよ」

シャツを握りしめた手に力を込めた。


「え?」

「ちゃんと、考えるから……時間ちょうだい」


これが、今、私が言える精一杯だった。


ちゃんと自分の気持ち、確かめてみるから……。



「わかった」


一度、ぎゅっと強く抱き締められ、それから体が離れた。



「雨、止んだみたいだな」

気が付けば、雨の音はしなくなっていた。



「帰るか」

「……クシュン」


エアコンを入れてたせいで体が冷えてたみたい。


返事をする代わりにくしゃみが出た。



「……風呂入る?一緒に」

「入らないし……」



笑い声を背中で聞きながら、乾いた制服を掴んで脱衣所へ向かった──。