「お前のこと、忘れらんなかったんだ」


嘘……。


「何であんな悲しそうな目をしてるのか。何であの時泣いたのか。ずっと気になってた」


そんな顔しないで。

そんなこと言わないで。


「待って……ちょっと待ってよ……」


だけど、混乱した頭でいくら考えてみても、答えなんてもちろん出てこない。


すると、掴まれた手を引き寄せられて、あの時のように抱き締められた。



「ごめん。焦り過ぎた」

そう言って、私の頭の上で大きく息を吐いた。


頭を撫でられると、だんだん落ち着いてくる。


シャツの裾を小さく握った。

……どうしてこんなに心地良いんだろう。



「……真央」


ドキッ


耳元で名前を呼ばれた。


初めて下の名前で、本当の名前で呼ばれた。



「名前、呼んで」

「え?」

「“ケンジ”じゃなくて……呼んで」


そんなこと言われたって……恥ずかしいし。


「……・無理」


そう言うと、クスッと笑う声がした。


「ひでぇな。……じゃあ、キスしていい?」

「……もっと無理だし」

先生はクスクス笑ってた。


これじゃ、からかわれてるのか本気なのか、わからない。



「……キス、された。旅行の時」

先生の肩に頭を預けたまま、ポツリと呟いた。


……どうして言い出したのかわからないけど。


言った瞬間、頭を撫でていた手が止まった。



「好きって言われた、けど。それからも態度変わらなくて、良く……わかんないの……」

「モテモテじゃん」


止まっていた手が、また動き出した。