「……っ」


急に、そんな真剣な顔、しないでよ……。


思わず下を向いた。


どう反論したらいいか、わからなくなるじゃん……。


大体、どういうつもりでそんなこと、言ってんのよ……。


──って私、どうしてこんなに……かき乱されてるの?



「お前」

「え?」

「旅行の時、何があった?」

「…………」


──琢磨にキスされた時。


黙ったまま首を振った。


「だったら、何で泣いてた?」

「泣いて、ない」

「嘘つけ」


「そっちこそ……どうして待ってろなんて……」

「渡したいもん、あったから」

「……え?」



そう言って先生は立ち上がると、また奥の部屋へ行き、小さな紙袋を持って戻って来て、私の前にしゃがみ込んだ。


何でかわからないけど、思わず後ずさる。


先生がその間を詰めて、後ずさって……を繰り返したら、背中にソファが当たった。


私の体を挟むようしにて両手をソファについたから、逃げ場を封じられた。



「何で逃げんの?」

至近距離に、メガネを掛けてない先生の顔がある。


濡れたせいで黒を増した髪が、瞳に掛っている。


あの時の、ソファで見上げた時の顔だと思った。



「逃げて……ないし」

“嘘つけ”とばかりに吐き出されるため息が宙を舞った。