肩に置かれたままの手に、ぐっと力が入った。


「……何?」


振り返って、手を払おうとした手が──止まった。



「…………」



雰囲気のある男っていうのかな。

それとも、色気のある男?

黒いシャツとジーンズを身に纏い、香水の香りを漂わせた、見上げる程の背丈をした男。

肩に置かれた左手の中指には、星の模様が入った大きな指輪。

サラサラとした漆黒の前髪の隙間から、同じく漆黒の艶やか瞳が覗いている。


……瞳が印象的な男だと思った。


だけど、そんな雰囲気にはそぐわない柔らかな口調。


「どこ行くの?」

男の手は今も、私の肩の上。


「……別に。アンタに関係なくない?」

ため息をひとつ吐き、ようやくその手を振り払った。

冷たさを装う口調は、精一杯の強がり。


「腹、減ってない?」

「すいてない」


「じゃあ、カラオケとか?」

「行かない」


「んー、困ったなぁ……」



意味わかんない。

何を困ることがあるんだか。


またひとつ、ため息が零れる。


無視して帰ろう。

そう思って踵を返そうとした時だった。




「君のこと……気になるんだけど?」