「じゃあ、真央、行こう?」

「うん」


私は結局、部活には入らないことにした。

そのうちバイトでもしようと思って。




「高岡。ちょっといいか?」

遥と二人、階段を降りようとした時だった。


振り返ると──久我先生がいた。



「真央、何かしたの?」

そう言って遥がクスクス笑う。


……何もしてないし。


「ごめん、先に下行ってて。すぐ行く」

「わかったー」


「帰るとこ、悪かったな」

「いえ……」


そう思うなら呼び止めるな、って言葉はもちろん飲み込んで後ろを歩く。

呼び出される先は、もちろん化学準備室。




「何ですか?」

準備室に入ると、今日も誰もいなかった。


呼び出されて入るのは二度目だけど、ここに他の先生がいるの、見たことない。



「友達出来て良かったな」

「……そんなことで呼んだんですか?」


敬語を崩さないように気を張る。


「お前、さっきみたいに笑ってる方がいいよ」

「何……いつと比べてるんですか?」


ホントは聞かなくてもわかってるけど。

今の私、あの時みたいだもん。


「言った方がいい?」

「……いえ」


何でこんなに構えてるんだろうって思うけど。

何となく二人の時に素を見せたくはなかった。



……泣き顔、見られちゃってるけど。