一人の家にはいたくなくて、こんな場所で人の流れをただ眺めていた。

濃い目のメイクをしてみたり、スプレーで髪の毛を茶色くしてみたり。


……ふっ。


ガラスに映った自分の姿に、思わず笑ってしまった。

こんな所にいたって、こんなことしたって、何も変わらないのに。

一人になってしまったことは、どんなに足掻いても変わらない現実なのに……。





「何してんの?」


こんなことをしている自分が急にバカらしくなって、もう帰ろうかと思った時、いきなり声がした。

多分、私に話しかけてる。

でも、そっちに視線をやるつもりなんてない。


……一人でいたくないって思ってたのに、いざ声を掛けられたら臆病な……本当の私が顔を出す。




「ねぇ、何してんの?」

男は同じ言葉を繰り返した。


「こんな所に一人でいたら危ないよ?」

そう言って右肩に手を置かれた。


ビクンッ。

肩が小さく跳ね上がる。


……バカだね、私。



「……関係ないでしょ」

いざ声を掛けられたら、怖くなってしまった。



「暇してんなら、飯でもどう?」

……しつこいな。


「もちろん奢るし」


……嘘。


どうせアンタもさっき見た男達と一緒。

ただヤリたいだけなんでしょ。



……別にそれでもいいか。



──いや、やっぱり無理。


一瞬浮かんだ思考をかき消して、男に目を向けることなくその場を離れようとした……けど。




「待てよ」