一時はどうでもいいと思った高校の入学式。

薄くメイクを施し、いつも通りの黒髪にブラシを通した。



茶色い髪の私はもういない。

その代わりみたいにして目に映るのは、鏡の前に置いた”白いうさぎ”。



「ヘンな男……」



ナンパしてホテルまで行ったのに、何もしなかった男。

ただ優しく抱き締めて、背中を撫でてくれた男。


この”白いうさぎ”を見ると、対照的なあの”黒い瞳”を思い出す。


……思い出してもしょうがないのに。




真新しい制服に袖を通すと、少しだけ大人に見えるのが不思議。


「お父さん、お母さん、行って来るね」


写真の二人に声を掛け、新しいカバンを持って、新しい家を出た。


今日から私の、新しい生活が始まる。





学校の門をくぐると、同じように真新しい制服を着た人達がたくさんいた。

それと同じくらい、着飾った父兄の姿も。


私の隣には……もちろん誰もいない。



「真央ちゃん!」

名前を呼ばれて振り返ると、そこにはやっぱりきれいな格好をした琢磨のお母さんが立っていた。



「おばさん!」

その後ろには、同じく新しい制服を着た琢磨の姿も見える。


中学校の学ランとは違って、ブレザーを着た琢磨はやっぱり少しだけ大人っぽく見えた。