モノクロ

教室を出たところで誰かにぶつかった。


私はてっきり先に出た琢磨だと思ってたから、

「いったーい!」

って、わざと大きな声で言ってやった。



「悪い、大丈夫か?」


でも、返ってきた声は琢磨じゃなくて──。


「……先生!?」

「大丈夫か?」


「は、い……。大丈夫です……」


こんなに近くに圭吾を感じたのは久しぶりで。

かすかにする煙草と香水の香りに泣きそうになる。


「すみません、でした……」


掴んでしまいそうな手を慌てて戻し、涙が零れる前に圭吾の前から走り出した。


少し先に琢磨の姿が見えたけど立ち止れない……。


「ごめん! トイレ寄る!」


それだけ言うのがやっとで、そのまま琢磨の脇を通り過ぎてトイレに駆け込んだ。


鍵を閉めて、唇を噛み締めて。

震える口元を手の甲で押さえた。


そうでもしないと、声を上げて泣いてしまいそうだったから。




一瞬だけ触れた、圭吾の温度が余計に苦しい──……。