「……っ、何でそんな、こと……」

本当のことを言い当てられて、思わず目が泳ぐ。


「話くらいなら、聞くけど?」

そう言ってケンジは、私の頬に手を添えた。


真剣な眼差しが、優しい物に変わる。


「……何も、ない」

「何抱えてんの?」

「何でもないっ!」


何だか涙が出そうだった。


大きな声を出したから?

優しい目をしてたから?



「感情……表に出したの初めてだな」

ケンジはそう言って微笑むと、私の体を起して……そのまま抱き寄せた。


「…………」


それはまるで、親が子供を抱き締めるような感じで。


背中をポンポンと撫でられて、人の温もりを感じていたら、涙が出てきた。


陽子叔母さんに抱き締められても泣けなかったのに、どうして今なの……。



ケンジが着ているバスローブの端をぎゅっと握ると、ふっ……と小さく笑った気がした。


背中を撫でていた手で抱き締められながら、私は唇を噛み締めて声を殺して泣いた。



人の……ケンジの温もりが──心地良い。