「何でそんな離れてんの?」

ケンジは小さく笑うと、煙草に火を点け、缶ビールを開けた。


静かな部屋の中に、プシュッといい音が響いた。


私の右側、手の届く所に同じ物がある。


だけど、お酒なんて飲んだことないしなぁ……。




「つーか、先、風呂入る?」


そんなことを思いながら缶ビールを見つめていたら、急にそんな言葉が聞こえた。


お風呂?

いや、それはマズイ。

髪の毛の色、落ちちゃうし。



「……いい」


首を横に振って、缶ビールに手を伸ばした。


ここまで来たんだし、どうなってもいいや。

そう思って初めてのアルコールを口にした。



……お父さんやお母さんがいたらこんなこと、絶対にまだ先だったはず。



苦みが口の中に広がって、思わず眉間にシワを寄せた。

どうしてこんな物、涼しい顔して飲めるんだろう。





「風呂、先に入っていいか?」


それでも半分くらい飲んだ頃だろうか。

カツン、と軽くなった缶をテーブルに置く音がした。


黙って頷くと、煙草の火を消したケンジがバスルームに向かった。


私はその後ろ姿を、アルコールの回ったふわふわした頭で眺めていた。


顔がほんのり熱い。


口の中に残る苦みに眉をしかめながら缶を両手で包み、改めて部屋を見渡した。


見慣れない部屋、って意味では今の私の部屋と一緒。


違うのは……大きなベッドと煙草の匂いとアルコール。