「どれにする?」
入ったのはわりときれいなラブホテルだった。
ラブホってもっと、古くて汚いイメージだったんだけど……。
「……どれでも」
どれにするって聞かれても、初めて入ったのにわかるわけがない。
「じゃ……これにするか」
ケンジはライトの点いているパネルの中から一つを選び、ボタンを押した。
すると、プレートのついた鍵がパネルの下にある小さな口から出てきた。
……自販機みたい。
鍵を手にしたケンジに手を引かれてエレベーターで三階に上がると、部屋のドアの上にあるライトが点滅していた。
鍵を開けて中に入ると、やっぱりイメージとは違ってきれいな部屋だった。
白を基調にして、ソファに大きなテレビ、その横にはゲーム機なんかも置いてある。
一見普通の部屋っぽいけど、でも存在を主張するように、ガラスの仕切りの奥には大きなベッドがあった。
「何で突っ立ってんの?」
ケンジはソファを通り越し、テレビの横にある小さな木の扉を開けた。
中に小さな冷蔵庫が入っていた。
そこから缶ビールを二本取り出すと、ソファに腰を落ち着けた。
「座れば?」
まだ立ったままの私に、ケンジは自分の隣を顎で示した。
確かにこのままここに立ってるのもな……。
私は気付かれないように小さく息を吸い、ソファの一番端っこに座った。
ケンジとは、一人分くらいの間が空いている。

