…だったのに。


「聞いてんの?渡邊」


思いがけず聞こえてきた名前に、心臓が跳ねる。


と同時に、何だか不快感を感じて眉間にシワがよってしまう。


「え?もしかして姫?」


陽平も気付いたようで、身をさらに乗り出す。


「…ってあのギャル南じゃん」


囲んでるギャル集団の中でも、人一倍派手そうな後ろ姿は確かによくクラスで見かけるものだった。


「一言ぐらい喋れよ!!」


苛々がピークに達したような南が、被害者に一歩詰め寄る。


その一歩の移動でできた僅かな隙間から、被害者がちらりと見える。


綺麗な黒髪。


色白の透き通った肌。


細い手足。


「渡邊茉央」


思わず口に出したその名前。


6人のギャル集団に囲まれ、たくさんの罵声を浴びせられたはずの渡邊茉央。


しかしその表情はいつものように無表情で。


ただ詰め寄った南に視線を送っているだけだった。


「聞いてんの?」


表情を崩すことない渡邊茉央に南が再び詰め寄り、ついにその胸ぐらを掴む。


「あー、もう限界」


そう南が呟いて、思い切り右手を振り上げた。