「なぁ、渡邊茉央に彼氏いるって話聞いたことある?」


いつもの屋上。


いつものように陽平と二人で煙を吐き出す。


「聞いたことねぇけど」


不思議そうな顔で、いや怪訝な表情で陽平が答える。


「何で急に?」


陽平が眉間に皺を寄せた状態で俺を見つめる。


「薬指に指輪」


俺は自分の左手の薬指を突き出して言う。


陽平がくわえていた煙草を口から離し、目と口を大きく開ける。


「………まじ!?」


数秒遅れてのリアクション。


相当驚いたらしい。


まぁ、俺も昨日相当驚いたけど。


「まぁ、けど」


はっと我に返った様子の陽平は、短くなった煙草を大きく吸ってまた口を開く。


「あんな美人なんだしいてもおかしくねぇか」


妙に納得したような陽平に、何故か納得できない俺。


「でもあの無愛想さだぜ?」


何か納得してしまった陽平が気に食わず、何となく反論してみる。


「でも顔はずば抜けてるしさ。彼氏の前じゃ意外と可愛かったりして」


想像してみてよっぽど可笑しかったのか、陽平が気味悪く笑う。


「そうかな」


俺はただそう納得したように答えながらも、悶々としていた。