闇から解放されてから一応他国への移動もできるようになったらしい。移住した人もいるとか。たしかに。それもいいかもしれない。月影島に戻るのも、アークティクへ行くのも、全然知らない土地へ行くのもいいかもしれない。アルトルーシュカの人間は他国で阻害される可能性はあるが……。


「………ん?」


なにやら遠くから叫び声が聞こえた。


「ドロボウよーッッ!誰か!誰か捕まえてー!」
「……?盗みねぇ……。犯罪の程度も落ちたな。はいはい、今行きますよー」


声の聞こえる方向へ走った。まぁ昔のような人混みなら追いかけるのは大変だが、今のこんなただの平地じゃ隠れる場所もない。犯人なんてすぐ見つかるし、すぐ追い付く。きっとこれは職業病だろう。工作員ではない今、もうこんな事をする義務なんてないのに…………。勝手に動く体になんとなく嫌な感じがした。


「………げッッ!?どこから降ってきやがった!?」
「降ってきやがった?面白いこと言うのね。残念。追っかけて来て、あんたの上飛び越えたの。」
「クソ………軍人か…」
「さ、盗んだ物出しなさい」
「嫌だ」
「渡せ!」
「嫌だ!お前達みたいな富裕層の奴等に
俺達の気持ちがわかるか!5年も経ったのに何一つ変わりもしないじゃないか!
盗みでもしなきゃ生きていけないんだよ!」
「あたし、別に富裕層なんかじゃないけど………。無職だし」
「…………。知るかそんな事ッッ!」
「仕方ない。じゃあそれ、一緒に持ち主の所へ返しに行くぞ」
「だから嫌だって!」
「どーせあたしが無職で居候の身だからってそれ盗られるんじゃないかって警戒してるでしょ?」
「……そこまでは言ってない…」
「だったらあたしはついて行くだけにするからお前が自分で返せ」
「……わかったよ。しつこいな……。めんどくさい奴に見つかったな」
「よろしい。じゃあ行くぞ」