「つぐみ?」

「へっ」

「あ、また先輩の事見てたんでしょ」


気が付かない間に背後に居た友人に驚き、情けない声を上げると、

彼女は意地悪に口角を上げて窓の外に視線を巡らせた。

私は恥ずかしくなって、手遅れだと言うのに意味も無く教室の中を歩き回る。

その間に光ちゃんは、常盤先輩を見つけてしまったようだ。


「おー、今日もいい男だね」


結局、消しきれずに残った黒板の隅の文字も、落書きだらけのクラスメイトの机も、

光ちゃんの一言ですべてが遠い記憶のようにぼやけてしまう。

目に焼きついた色んな表情が次々と頭に浮かんでは消えて、まるで花火みたいに。

先輩は今どんな顔をしているんだろう、私の知らない顔だったりして。

そわそわし出した私に気が付いて、光ちゃんがまた意地悪く笑う。


「見ないの?」