あれから数週間。

何事もなかったかの様な毎日を私は過ごしていた。

翔の告白のあと、結局『知ってたよ』と告げられずにいた私は、心の中に鉛を抱いたままだ。

それでもいい。

翔の傍にいられる事を幸せだと感じていた。

彼女が押しかけてくる不安がなかったと言えば嘘になるけど、それでも毎日が楽しくてしかたなかった。

あんなに苦しめた赤ちゃんの影も、気が付けば気にも留めなくなっていて。

『何でお前なんだろう…』

私を選んでくれたと知る事が出来た言葉。

これは、私が存在する上ですごく重要な安心材料だった。




「今日、海行かないよね?」

早々と実習を終わらせた私は、翔の部屋に来ている。

今日はクリスマス。

先週、美里とクリスマスの買い物に出掛けて、翔が欲しがってたヴィトンの財布を買った。

ケーキと夕食は、学校が終わってから私が作ると約束していたから海に行ってる暇なんてないんだよね。

「うーん、行ったら怒んだろ?」

名残惜しそうにサーフボードを見つめながら翔が言う。

「怒る!ボード割るよ?」

右手をグーの形に握って、壁に立てかけてあるサーフボードを叩いた。

「バカ、やめろよ!行かねーって!!」

まるで宝物をかばう様に翔が私の腕を振り払う。

それを横目で見ながら、割るわけないじゃん、と笑ってみせる。

「今日、何作んの?」

「うーん。ハンバーグとカボチャのクリームスープとサラダかな」

「そんなの作れんのかよ!?」

翔は驚いた表情で私を覗き込んだ。

翔が驚くのも無理はない。

一人暮らし用の狭いキッチン。

狭いシンクとガスコンロが一口。

野菜を切るスペースなんてほとんどないこの場所で、今まで料理らしい料理なんてした事がなかったから。

せいぜい、味噌汁とかオムレツとかだったもんなぁ。

「なんとかなるでしょ」

手順さえ考えれば、コンロが一つでも何とかなるよ、と私は笑う。