「じゃぁ、その人を幸せにしてあげなきゃだね…」

言いながら、心が悲鳴を上げていた。

それを押し殺して、無理矢理にでも自分を納得させようと言葉を続ける。

亡くなった赤ちゃんに誓うってのは…強いよ。

どう頑張っても勝てそうにない。

好きなら、誓いを破らせたくないって思うもん。

私は…彼女じゃなくてもいいよ。

友達として……傍にいれるだけでも幸せだと…思うから。


私の顔は、涙でグチャグチャだった。

失う事を恐れながら、失っても構わないと口にした自分がすごく恨めしかった。

すっかり冷たくなったコーヒーを一気に喉に流し込む。

喉から胃に落ちた液体が、体の内側から体温を奪っていった。


「それが出来たら、こんなに悩んでねーよ……」

搾り出すような声だった。

その声に、思わず隣に座る翔の顔を見上げる。

きつく閉じた目蓋の縁が、街灯の明かりを引き寄せて光の筋となっている。

「なんでだろうな…なんでお前なんだろう」

翔の腕が私を抱きしめた。

耳に伝わる鼓動が、私よりも早く打ってるような気がした。

何の変哲もない毎日だったのに。

お互いの気持ちを確かめ会う事も、絆を深め合うような出来事もなかったのに。

知らず知らずのうち、アタシ達は離れることが出来なくなっていた。