窓の外を流れる景色が見慣れた大学周辺のものに変わってすぐ、住宅街の一角で車が止まった。

「これ、俺のアパート」

私たちは声に促されるまま、翔の指した指の先を見る。

白い壁に覆われた2階建てのアパート。

1階の行儀良く並べられたポストの上に“ADN”とアパートの名前らしきプレートがデカデカと掲げられている。

「ADN…って何かの略語?」

文字を凝視したまま左右に頭をひねる。

「あら・どうも・なんちゃって」

真面目な顔をして翔が答える。

はぁ?

怪訝な顔で視線を向けると、翔は素知らぬ顔で笑っている。

「翔って…超テキトウ男だ」

私は座席にもたれ掛かり、呆れた顔をして笑った。

俊も笑った。

そんな私たちを見て、翔も楽しそうに笑っていた。







「リョウ、悪いけどそこの荷物持ってきてくんない?」

翔が車から降りながら、私の横に置かれた袋を指差す。

ココナッツの香りがしつこく残るそれは、さっき翔が買ったものだ。

駐車禁止エリアという事もあって車から降りれない俊に代わって、私はそれを手に取って車を降りた。

「今日はありがとな、楽しかった」

開けられた窓越しに、翔が俊に声をかける。

「じゃ、ちょっと行って来るねー」

私も袋を目の高さでブンブン振りながら、翔の後について行った。