翔の行きたかったというショップは、学校からかなり遠い場所にあった。

海の近くに建つそれは、想像してたよりも小さく、店内はココナッツのお香の香りが立ち込めていた。

ログハウス調の店の中には、短いものから長いものまで、大小色とりどりのサーフボードが所狭しと壁に飾られている。

サーフィンなんて興味のない私には、長さと色柄以外、何がどう違うのか分らなくて、ただただ眺めるだけしかできなかったんだけど、翔は子供のようにはしゃぎながら「スゲー。マジかっこいい!」と繰り返し叫んでいた。

マリンスポーツと縁のなさそうな俊でさえ、その姿に影響されて目を輝かさせている。

そのテンションの波に乗り切れなかった私は「タバコ吸ってくる」と言い残し外へ出た。

松林の隙間から流れてくる潮の匂いをかぎながら、取り出したタバコに火をつける。



勢いでここまで付いてきちゃたけど…

私、何やってるんだろ。


一筋の煙を吐き出しながら、ふと冷静になる。

あ…。

つい外に出てきちゃったけど、誘われて来たんだから店に残ってた方が良かったのかな。

すごーい!

カッコイイー!!

って一緒になってはしゃいでた方が良かったのかな。

感じ悪い奴って思われたよね。

あーぁ。

しゃがみ込んだ私は、自分の靴の先を見つめながら小さな溜め息をついた。


「どうした?気分でも悪い?何か飲む?」

座り込んだままの私の前に、慌てた様子で駆け寄って来た俊。

私は、タバコの先を地面にこすり付けて消し、大丈夫だよ、と顔を上げて笑った。

その顔を見て、俊は安心したように優しく微笑んでいる。