「片、山」
「園村さんは随分と沢山居るみたいだね」
壁から背中を離して、ゆっくりと歩いてくる。笑ってるはずのその顔にどこか威圧感を感じた。
ぴたりと、片山の影が私の目の前で止まる。かと思ったら、いきなり腕を掴まれた。
「え、ちょ…片山!」
「帰るよ、更沙」
ぐんぐんと進む片山の背中を見て、色々な思いが脳内を飛びかった。
部屋に鞄置いてきちゃったのに、とか何で片山がここに居るの、とか。唯斗に任せて来ちゃったけどちゃんと介抱してくれるかな、とか。
でも一番の疑問はどうやら片山が怒ってるらしい事だった。
いつもへらへらと笑ってて、温厚というには抜けすぎた片山が。怒りなんて感情あったのか。相変わらず前を向いたままの片山の背中をじっと見つめた。
どれだけ楽しい時間を過ごしても、そこに片山が居ないだけで駄目だなんてほんとどうかしてる。片山のその笑顔が一番安心したなんて、そんな恥ずかしい台詞はまだ取っておこうか。
このマイペースキングの機嫌が早く直ればいいなんて思ったのは、お酒の所為にでもしなきゃやってらんない。
