「だからさ、その、そんな思い詰めた顔しなくても大丈夫だよ」
彼の意図を理解した瞬間
、自然と口元が緩んだ。この茶髪の少年は、励まそうとしてくれているのだ。まだ会って間もない私を、庇ってくれてる。
笑顔に見合ったお人好しな彼に、ありったけの笑顔を返した。
「うん、ありがとう。大丈夫」
私の笑顔を見てほっとしたように、掴まれた腕から力が消えた。そっか、と呟いた彼はどっからどう見ても人の良い少年にしか見えない。
またね、なんて言って笑い合って、喧騒を後にした。
「楽しかった?」
「……は」
部屋を出てお手洗いに行こうとしたら、どうやらこの階にトイレはないらしい。やむなく階段に向かおうとした私に降ってきた声。思わず自分の耳を疑った。
ここに、居るはずのない声。恐る恐る振り返ると、そこにはやっぱり笑った顔があった。
