「更沙。かーえろ」
あっという間に放課後。何で過ぎてほしくない時に限って、時間が過ぎるのは速いんだろうか。不思議でしょうがない。
絶対私を誘う片山を、断った事は少ない。最初の方はそれこそ脱兎の如く逃げ出していたが、どこまでも笑顔で追い掛けてくるのだ。奴は。それからは適わないと悟っておとなしく片山の隣で帰っていた。
「あの、さ。片山。私今日友達と約束あるから先帰っててくんない?」
「園村さんと?」
「う、ん」
決して嘘ではない。嘘では。ただ+αが加わるだけで。そこに親友は確かに居る。
「そっか。残念、久しぶりに更沙と寄り道しようと思ったのに」
片山は笑っていた。にっこりと、それこそ効果音がつきそうなくらい。片山の口から更沙、と私の名前が零れた瞬間。私はその違和感にぴくりと顔を上げた。まだ聞き慣れない片山の呼び捨てに、少しだけ刺が混ざってた気がしたのだ。
でも片山はいつもの笑みを浮かべていただけだった。思い過ごしかと思うくらい、自然だったから気付かなかったんだ。片山の本音に。
