「見て見て、“凶悪犯罪のすすめ”だって賀田桐さん」


 そうして黒革の本を手に持ってにこりと笑い掛けてくる片山に鳥肌がたった。いつものへらへらした顔でそんなデンジャラスな単語を言わないで欲しい。片山がそっち系の本を持つともはや凶器だ。心臓に悪い。


「どーでもいいけどその趣味悪い本に触発されて凶悪犯罪起こさないでよ。あんたと仲良い事にされてる私まで飛び火がくるから」


「どーでもいいって、酷いなあ賀田桐さん。あ、そうだ一つクイズを出してあげる」


「はあ?クイズ?」


「そう、とても簡単なクイズだよ。ある所に夫婦が居たんだ。ごくありふれた普通の夫婦。でも夫が死んで、勿論葬式をやる事になった。そこで妻は、葬式に参列したある男といい感じになった」


「夫が死んだってのに、気の多い妻ね」


 片山の話に割り込んで、短く舌打ちすると片山が困ったように眉を下げる。はいはい、割り込んですいません。


「まあそういう考えもあるけど。それで、妻は夫の葬式が終わってすぐ、今度は自分の手で息子を殺した。さて、妻が息子を殺した理由は何でしょう」


 にたりと、効果音を付けるならそんな笑みを浮かべて、片山は私に訊いた。


「はあ?なんで夫が死んで悲しんでる時にわざわざまた悲しむような事しなくちゃなんないのよ。馬鹿じゃないの」


ばっさりと、秒殺してそう言った私に、片山は少し驚いたように目を見開いた。馬鹿馬鹿しい。