片山の言葉に驚いて固まっていると、やっぱりゆるい笑顔でぐいっと私を引き寄せた。引き寄せて耳元で片山が囁く。
「久しぶりにさ、二人になりたいな」
片山はそう言って私の耳に息をふっと吹きかけた。慌てて奴から距離をとる。がっちり腕を掴まれてる所為で実際離れたのは数センチだけど。
至近距離にある片山の顔。黙ってれば人形みたいに綺麗な顔。睫毛長いなとか。肌真っ白で毛穴がないとか。まるで片山が同じ世界の住民じゃないみたいな気さえする。
「っ…変態!」
「あは、顔真っ赤にして可愛いー」
「奇人変人阿呆片山」
「ほら、行こう」
そう言って有無を言わさず歩きだす片山。私はもう顔が噴火しそうな勢いだった。
手、手。片山に何気なく引かれた手が私の指に絡まっている。俗に言う恋人繋ぎ。ああもうこいつはどれだけ私の心臓を壊すつもりなんだ。早死にさせる気か。
「…林檎」
愉しげな背中にぽつりと呟いた。消え入りそうなその声は、多分片山の耳には届かなかっただろう。布擦れと足音に掻き消された言葉は、だけど確かに私の胸に響いた。
