にょきりと伸びた手を叩き落とす。叩き落としたつもりの腕が何故か私の腰をがっちり掴んでいるのは納得いかない。まるで魔法みたいに私は片山の腕に掴まるのだ。
「離せ奇人」
「やーだ。更沙離すとどっか行っちゃうでしょ」
「! ききき気やすく名前で呼ぶな変人片山!」
「えー。更沙が林檎って呼んでくれたら考えてあげる」
「ふざけんな」
最初“賀田桐さん”って呼ばれた時は“は?”とか思ったくせに。自分も大概天の邪鬼だなあと苦笑した。
何の前触れもなく名字呼びに戻された時は、心臓がち
くりと痛んで。今度は名前を呼ばれただけで全身の血が顔に集まったかと思った。悔しい事に、私はこの感情を何と呼ぶか知ってしまっている。
ありえない。あの片山に。全力で否定してみても、まわされた腕に幸せを感じる自分が居て。もう奴の魔力に充てられたとしか思えない。
「ね、意地張ってないでさ、呼んでよ」
「………嫌」
「意地悪ー」
けたけたと楽しそうに笑う片山を見て、もう少しだけこのままで居たいな。なんて思ってしまった。ほんとにもうどうかしてる。
