「林檎って呼んでくれないの?」
「……は?」
何言ってんだこいつ。という視線を向けると、未だ緩い笑顔でニコニコと佇んでいる片山。
「前熱でぶっ倒れた時は、呼んでくれたじゃん」
「! あ、あれは…ていうか覚えてんの片山!」
「ちょっとだけね。本当に記憶がないのは気絶する数分前くらいだし」
にやりと、意地の悪い笑みを浮かべる片山。分かっててやってるんだろう。この奇人変人性悪が。
沸々と沸き上がる怒りを抑えながら片山みたいな笑みを貼りつける。引きつっただろうその笑みに笑われたのは言うまでもない。
「んの…!だったら最初から言いなさいよ!」
「だって聞かれなかったし」
「だからって…もういいや。片山に勝とうと思った私が馬鹿だった」
はあ、と溜め息を吐く。額に当てた掌で降参の態度をとると片山は満足そうに笑った。
