片山の好きなプリンみたいに甘ったるい響きを持った片山の声は、私の心臓をどくんと動かす。


「…なに」


「片山じゃなくて、林檎って呼んでよ」


「…は?何で私が」


「お願い」


熱で上気した顔で懇願されては、例え相手が片山でもノーとは言えないじゃんか。狡い片山。多分片山はそれが分かってて、敢えてこの状況で私に頼んでいるのだ。


奴は頭と顔だけは恐ろしく良い。それがまたムカつく。

「…腹黒」


「ふふ、分かってるよ」


「変態」


「変人って言ってよ」


「馬鹿」


「更沙には言われたくないな」


「っ…阿呆林檎!」


 半ばやけくそでそう叫ぶ。だけど片山は嬉しそうに笑った。


こいつ、笑ってない時はないんじゃないか。そんなどうでもいい事を考えていると、突然身体が傾いた。


そして、異様に近い片山の顔。


あ…れ。


「…!」


「あは、更沙かーわい」


 目を見開く程に近くにあった片山の顔は直ぐに離れていって、だけど消えない唇の感触にキスされたんだと気付いた。


まだ鼻と鼻がくっ付きそうな距離で見つめ合う。いつもとは違う片山の真剣な瞳にまた鼓動が速くなった気がした。